岳温泉の湯守に四季を通して同行してみた
福島県二本松市にある岳温泉の「ミルキーデイ」というものをご存じでしょうか?
コロナ禍の2020年頃から複数のメディアで取り上げられ、無色透明の温泉が週に一回白くにごり、牛乳のようにミルキーなお湯になることから、元地域おこし協力隊の丸田さんという方が名付けられました。
私は2022年1月〜2024年3月まで二本松市地域おこし協力隊として岳温泉観光協会に勤務し、岳温泉の魅力再発掘や情報発信、イベント企画、地域の素材を生かしたワークショップメニュー企画など様々な活動をさせていただきました。
その中でライフワークとして日本百名山である安達太良山に登り、岳温泉の湯元付近でお仕事をする湯守(ゆもり)さんたちのお仕事を少し手伝ったり、トレイルラン練習の合間に少しお邪魔してお話しをしたりと、おそらくメディアの取材陣よりも多く月に1回ぐらいのペースで2年以上撮影などをさせてもらいました。
その湯守同行の様子を動画でまとめてYouTubeで発信したり、温泉総選挙のPR活動で使用させてもらったりはしましたが、改めて年間を通しての湯守さんたちの様子を文章と写真の形でまとめて発信することで湯守さんたちの日頃の苦労や岳温泉の温泉の魅力がより伝わるのではないかと思い、協力隊を卒業してもうすぐ1年が経つこの時期にこの記事を書かせてもらっています。
ぜひ岳温泉の湯守、ミルキーデイの裏側を知って、月曜日のミルキーデイに岳温泉を訪れていただけると嬉しいです。
※ミルキーデイは必ず月曜日ではなく、祝日や天候などで曜日が変更になる場合があります。
岳温泉の湯守のお仕事とは?
まず湯守とはどういった人たちなのかと言うと、その名の通り温泉のお湯を守る人たちのことなのですが、岳温泉の場合は仕事をする湯元が安達太良山の中腹付近にあり、温泉街から8キロほど離れているので作業場所まで山を登る必要があります。
夏場は馬車道という広い登山道があるので、車で湯元まで行けるのですが、冬場は雪が積もるので安達太良高原スキー場があるふもとから2時間ほどかけて雪の積もった山道を徒歩でのぼらなければなりません。
また仕事内容としては、夏場は平日週5日月曜日の湯花流し以外にも老朽化した湯樋(ゆどい)の交換作業や、東日本大震災で埋まった源泉の掘り出し、源泉地帯の整備など大きな重機が入れない環境で過酷な力仕事をされています。
逆に冬場は雪が数メートル積もる極寒の地になるので、週に1回のミルキーデイの日の湯花流しの作業しか行えません。そのため湯守さんたちは冬場は別の仕事もしなければ収入源を確保することが難しく、このことが若い世代への湯守の継承を困難にさせています。
現在の湯守のメンバーは、頭の武田さんを筆頭に遠藤さん、影山さんが70代、矢吹さんが40代、そして私と同じ岳温泉の地域おこし協力隊を卒業して湯守になった中山大輝さんが20代という5人のメンバーで岳温泉の湯守をしてくれています。
湯花流しについて詳しく説明
湯花流しとは、週に1回湯樋のパイプの内側に付着した硫黄成分である湯花をお手製のたわしで絡めとる作業です。これは動画でみてもらった方がわかりやすいと思います。
そうすることで湯花はお湯と一緒に引湯されて岳温泉まで届きます。すると湯花流しの日は真っ白な濁ったお湯になります。これがミルキーデイの仕組みです。
この湯花流しは、夏の暑い日でも冬の吹雪の中でも一年を通して毎週行われます。そうしなければ湯樋のパイプが湯花で詰まり岳温泉までお湯が届かない事態になってしまいます。
つまり岳温泉ではこの湯守さんたちの作業によって日々温泉に入れているわけです。
湯守さんたちってどんな人?
メディアでの湯守特集でも、湯守さんたちの人柄まではあまり取り上げられないので少し紹介させてもらいたいと思います。
湯守さんたちはあまり表に出るタイプの方たちではありませんが個性豊かで、何より安達太良山・岳温泉への愛に溢れた、内に秘めたる情熱を感じさせる人たちです。
岳温泉の湯元のすぐそばにはくろがね小屋という山小屋があります。湯守さんたちはそこで休憩をしながら作業をしていました。(2023年4月からくろがね小屋は建て替え工事のため休館になり現在は一般の方は立ち入ることができなくなってしまいました。)
その休憩中に繰り広げられるくろがね小屋の小屋番や他の登山客の方との会話はとても面白く、私もそれを楽しみに湯守に同行していたところもあります。
その人柄に触れて、地域おこし協力隊だった中山隊員は湯守になる道に進んだのかもしれません。
春の湯守
平地で桜が咲く頃でも山は残雪でまだまだ冬の景色です。風が吹くとまだまだ寒く厳しい環境です。ですがいろんな種類の高山植物に出会えたりアサギマダラという蝶に出会えたりと湯守さんたちはそういった春らしいものとの出会いも楽しんでいました。
夏の湯守
新緑の季節、心地よい気候かと思えば日差しが強く真夏は山の上と言えど紫外線が強烈です。作業をしていると汗だくになってしまいます。
Jeepやランドクルーザーに資材を大量に積んでパイプの交換など湯花流し以外の日はこの時期は土木工事の現場みたいな仕事が続きます。みなさん体力もパワーもあってとても70代とは思えないです。
秋の湯守
くろがね小屋周辺の紅葉はとても綺麗です。それを目当てに来る登山者が平日でもたくさんいるので登山道での車とのすれ違いが大変です。
ですが、それ以外は最高の景色の中で仕事できるのはとても羨ましいです。
冬の湯守
メディアでよく取り上げられる吹雪の中での作業。私も何度か同行していますが手がすぐにかじかんで大変です。
でもスノーシューでの登山や新雪の中を歩くのは非日常で私にはとてもいい気分転換でした。
吹き溜まりになっているところでは数メートルの雪が積もっていてラッセルして進むのも一苦労です。普段はみられないような景色にも出会えるので山が好きな人にとってはとても楽しい仕事かもしれません。
まとめ
今現在、岳温泉の湯守同行ツアーは開催されていないので地域おこし協力隊として何回も湯守さんの作業に同行させてもらったのはとても貴重な日々だったなと思います。
またくろがね小屋も建て替え工事中で立ち入りできないので、何度も小屋番さんとおしゃべりに行ったのはいい思い出です。
岳温泉の湯守は過酷だという映像がよくテレビでは放送されますが、もちろんそういう側面もありつつとても面白いいい人たちなのであだたら高原スキー場とかで見かけたら感謝を伝えて見るのはいかがでしょうか?笑
こういったミルキーデイの裏側や湯守さんたちの存在を知ってから入るミルキー風呂はきっとこれまでよりも格別なものになると思うので、
この記事を読んでミルキーデイの岳温泉を訪れてもらえると嬉しいなと思います。
岳温泉地域おこし協力隊OB 坂東拓哉