桜がつないだ浪江町と岳温泉の絆。美しく咲き誇る花が紡ぐ物語
桜のトンネル「桜坂」や鏡ヶ池公園でお花見を満喫
こんにちは、岳温泉観光協会です!
今日から4月。福島県内でも桜の開花が始まり、いよいよ春本番ですね。岳温泉の桜が咲くのももうすぐ。今年は例年より開花が早そうなので、4月中旬~下旬に見頃を迎えそうですよ。
岳温泉が誇る桜の名所といえば温泉の中心街から鏡ヶ池公園へと至る、その名も「桜坂」。200mほどの坂道の両側にソメイヨシノの大木が立ち並び、花の時期には美しい桜のトンネルとなります。坂の途中に足湯があるので、湯に浸かりながら花を愛でるのもおすすめです。
晴れた日には、鏡ヶ池公園から池越しに桜並木と残雪の安達太良山を一望できて絶景です。隣接する緑ヶ池公園も含め、園内にはソメイヨシノや八重桜が植えられているので、のんびり散策しながらお花見を楽しんでくださいね。
震災の翌年から「絆さくらの会」が手入れを開始
桜坂のソメイヨシノは、明治39(1906)年から地元の人たちが植え始めたと伝わっています。樹齢100年を超える古木ですが、毎年春になると見事な花を咲かせています。しかし10年前までは病気(てんぐ巣病)の木が多く、樹勢の衰えが著しい状態でした。桜の手入れを行い、現在の美しい姿にしてくださったのは「絆さくらの会」の皆さんです。
絆さくらの会の前身は、平成8(1996)年から福島県双葉郡浪江(なみえ)町の「請戸川(うけどがわ)リバーライン」の手入れをボランティアで続けてきた「浪江桜の会」。請戸川リバーラインは浪江町内を流れる請戸川沿い約1.5kmに約120本のソメイヨシノが咲き誇る、浜通り(福島県東部の太平洋に面したエリア)を代表する桜の名所の一つです。
絆さくらの会と岳温泉の交流が生まれたのは平成23(2011)年。皮肉なことですが、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故がきっかけでした。同年4月、岳温泉の宿泊施設に浪江町の方々が二次避難でやってきたのです。その中には絆さくらの会(当時は浪江桜の会)会長の小黒敬三さんもいました。
「4カ月くらい岳温泉にお世話になったから、恩返しに何かできないかと思ったんです。桜を見たらボロボロに弱っていたので気になっちゃって(笑)」と小黒さん。「桜坂のソメイヨシノは古くて幹が太いですよね。それが病気だらけだったので、私らが浪江でやった手入れのやり方でお手伝いできないかと思って観光協会に申し出たんです」と、浪江桜の会の発起人で二本松市内に避難していた原田雄一さんも振り返ります(写真右が小黒さん、左が原田さん)。
請戸川リバーラインの桜並木も以前は病気の木が多かったそうですが、浪江桜の会の手入れによって美しさを取り戻したという経緯があります。小黒さんと原田さんは県内各地に避難していた会員に声をかけ、翌平成24(2012)年から岳温泉の桜の手入れを始めました。以来毎年欠かさず、3月の土曜日と日曜日を利用して作業を実施。今では地元住民も一緒に手入れを行うようになっています。
高所作業車を使って病気の枝を切る本格的な手入れ
令和3(2021)年3月。震災・原発事故から10年目となった今年も、絆さくらの会の皆さんが岳温泉に来てくださいました。現在は浪江町に戻っていらっしゃる小黒さん、二本松市内の復興住宅にお住まいの原田さんをはじめ、須賀川市や国見町から三浦一雄さん、草刈恒彦さん、高橋義國さんが集結。会のトレードマークである桜色のヘルメットをかぶって、地元住民とともに作業を行いました。
手入れは毎年、桜の状態を見ながら桜坂とその周辺で実施しています。今年は桜坂の南側道路の桜並木を重点的に行いました。
作業は、高所作業車を使って病気の枝などを切る本格的なものです。「てんぐ巣病にかかった枝は花が咲かないんです。枝を見るとわかりますが、花芽がなく葉っぱの芽だけ。ここから栄養と水分を奪っていき、最後は桜全体が枯れてしまうので、てんぐ巣病の枝は切る必要があります。自然に折れたりした枝も、放っておくとそこから腐ったり枯れたりするので切ります。花の時だけ見ると元気だなと感じるけど、実際は幹の中までボロボロになっていたりするんですよ」(小黒さん)
チェーンソーやノコギリで枝を切った後は、切り口に防腐剤と、水分の蒸散や雨水の浸入を防ぐ癒合剤を塗って保護します。切り落とした枝を片付けて、次の桜の木に移動。また病気の枝などを切り、切り口に薬剤を塗って保護する。この繰り返しで、1本ずつ丁寧に手入れしていきます。
小黒さんによると土日の作業のために金曜日に高所作業車を借りに行き、月曜日に返しに行くのだそう。時間をかけて準備をして、本格的な手入れをしてくださっていることに感謝しかありません。
浪江と岳温泉の交流でよみがえった美しい桜並木
10年前は樹勢の衰えが著しかった岳温泉の桜。絆さくらの会の皆さんが手入れしてくださったおかげで、今ではこんなに美しい花が咲くようになりました。
鏡ヶ池公園から『あだたらふれあいセンター』に至る旧本宮街道にも桜並木があります。桜坂よりも若い木ですが、10年前はてんぐ巣病で花が咲かない枝も多く、葉っぱばかりが目立っていました。現在は満開の桜並木を背景に、『空の庭』で結婚式を挙げるカップルがロケーション撮影をするまでになっています。
原田さんは言います。「僕らは震災でいろんなものを失いました。でも同時に、新たに得たものもあるんです。岳温泉との交流もその一つです。これは桜があったからですよね」
小黒さんも続けます。「浪江で長くやってきたから、自分らの桜の手入れはどこに行っても通用するんです。震災は、悪いことばかりじゃなかったと思います。浪江と岳温泉の交流で桜がきれいになったし、岳の人には桜をいろんな物語にしていってもらいたいですね」
震災・原発事故から2年後の平成25(2013)年。絆さくらの会は、浪江町の請戸川リバーラインのソメイヨシノの手入れを再開しました。しっかりと手入れが行き届き、以前と変わらず鮮やかに咲き誇る桜並木からは、絆さくらの会の皆さんのふるさとへの想いが伝わってきます。
浪江町と岳温泉。桜がつないだ絆に想いを馳せながら、満開の花を見上げてみてください。これまでとは少し違った、美しい風景が見えてくるはずです。
岳温泉の桜
所在地:福島県二本松市岳温泉地内
例年の見頃:4月中旬~下旬
問い合わせ先:岳温泉観光協会 電話0243-24-2310
請戸川リバーライン
所在地:福島県双葉郡浪江町大字権現堂字下川原付近
例年の見頃:4月上旬
問い合わせ先:浪江町役場産業振興課商工労働係 電話0240-34-0247
※記事中の見頃は例年のものです。気象条件などにより時期が前後することがあります。特に今年(2021年)は開花が早まる可能性がありますので、最新情報をご確認のうえお出かけください。