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安達太良山の恵み・岳温泉を守る「湯守」の物語<前編>  

 

温泉街から8km離れた山中の源泉から引く上質な酸性泉

 

突然ですが、クイズです!

全国的にも珍しい酸性泉の湯を楽しめる岳温泉。さて、その源泉はどこにあるでしょうか。

 

温泉街の中? いいえ、違います。

答えは、ここです。

 

 

この写真は、岳温泉のシンボル・鏡ヶ池から望む安達太良連峰の山並みを撮影したもの。左に見えるのが地元では「乳首山(ちちくびやま)」の愛称で親しまれている、おなじみ安達太良山(標高1,700m)です。岳温泉の源泉は、写真真ん中の鉄山(てつざん、標高1,709m)直下、標高約1,500mの場所にあります。

 

岳温泉の標高は約600m。源泉から温泉街まで標高差約900m、実に約8kmもの距離を引き湯してきているのです。酸性度が高く硫黄成分の濃い源泉は約40分かけて山肌を流れ下る間に適度に湯もみされ、肌にやさしいやわらかな湯となって旅館の湯船に注がれています。

 

 

引き湯によって届けられる、岳温泉自慢の上質な酸性泉の湯。この湯を支えているのは「湯守(ゆもり)」と呼ばれる人たちです。湯守の存在なくして岳温泉はない。そう言っても過言ではないほど、湯守は重要な役割を果たしています。今回は、湯守暦18年の武田喜代治さんに普段は立ち入り禁止の源泉地帯を案内していただき、その仕事について教えていただきました。

 

 

15カ所の源泉を集め、適温に調整して流す

岳温泉の源泉地帯は、鉄山を背景に建つ山小屋『くろがね小屋』の裏手に広がっています。

 

 

湯守の皆さんは山の雪がとける5月半ばから雪が降る11月上旬まで、天気がよければ毎日ここに来て源泉の管理やメンテナンスをしています。あだたら高原スキー場の東側にある登山道(通称馬車道)を四輪駆動の軽自動車で片道50分近くかけて登る、大変な“通勤”です。

 

 

自然湧出の源泉(湯口)は15カ所あり、それらの湯を集めて樹脂パイプで温泉街へ流しています。硫黄の匂いが漂う中を歩き、源泉の一つを見せていただきました。山の斜面の横穴に板が立てかけてあり、その中で湯がこんこんと湧いています。

 

 

「湯口によって温度が全部違うんです。ぬるいのは37、38度。高いのは80度を超えていて、時期によっては90度以上になることもあります」と武田さん。温泉街にある「分湯(ぶんとう。そこから各旅館が湯を引いています)」で常に50度以上を保っているように湯温を調整することが、湯守の重要な仕事の一つだそうです。

 

普通に源泉を集めて流すと分湯での湯温が約60度になって熱すぎるうえ、温泉が流れるパイプへの負担も大きくなってしまいます。熱すぎてもぬるすぎてもダメで、ちょうどいい湯温に調整するのが肝心とのこと。源泉地帯には20mおきに「点検口(てんけんこう)」があり、武田さんは一つずつ蓋を開けて湯温を測っていきます。

 

 

「寒い時はぬるいところを捨て、暑い時は熱いところを捨てて、いつも同じ温度にしています。それをやらないと下で熱すぎる、ぬるすぎるになっちゃうんです」。地形的に雨が降ると雨水が染み込んで湯温が下がる源泉もあり、雨天時はそこを使わずに捨てるのだそう。湯守の皆さんが季節や天候に合わせて源泉の量を調整することで、私たちは岳温泉でいつも適温の湯に浸かることができるんですね。

 

湯温を測るだけでなく、湯の量を確認したり、土砂などが入り込んでいたら取り除いたり、点検口のチェックだけでもやることはいろいろあります。

 

 

ほかにも麓から土嚢を運んできて源泉の周囲を補強したり、時には土砂崩れによる被害の復旧作業をすることもあります。機械が入れない山の上でのこうした作業は、すべて湯守の皆さんの手で行われているのです。

 

 

取材に伺ったのは11月12日。冬に備えた作業を急ピッチで行っているところでした。「雪で崩れそうなところを補強したり、冬に湯量が足りなくなりそうな時は今使っていない源泉から湯を入れるようにしたり、やっておかないと間に合わない仕事が結構あるんですよ」と武田さん。すべての作業を終わらせてから“冬ごもり”に入りますが、実は冬の間も過酷な仕事が続くのです。(後編へ続きます)

後編はこちら ↓

https://www.dakeonsen.or.jp/column/707/

 

スポット情報
岳温泉
住所:福島県二本松市岳温泉
電話番号:0243-24-2310(岳温泉観光協会)
駐車場:あり
ホームページ:http://www.dakeonsen.or.jp

 

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